2021年9月29日水曜日

注意!「公共の福祉」は「公益」・「秩序」ではありません


 自民党総裁選の候補者4名が、ネット討論会で憲法改正などを議論

した、という記事。

 4名とも、2018年に自民党がまとめた「改憲4項目」を踏まえた

改憲を進める気のようです。


● 高市氏「公共の福祉、わからん」 自民総裁選の改憲論議 (朝日)

 https://www.asahi.com/articles/ASP9W6KD2P9WUTFK00H.html



 とりわけ注意したいのが、高市氏が「公共の福祉」に基づく人権の

制約・調整について、これを「公益及び公共の秩序に基づく」制約、

と改憲したいと言及した点です。


<一部抜粋>

 高市氏は討論会で「大変興味があるのは12条の解釈です」と強調。

憲法12条は国民が自由や権利を公共の福祉のために用いる責任に

ついて記すが、高市氏は「公共の福祉という言葉が中途半端でわか

らん。『公益および公共の秩序』として、国民の命や国家の主権に

関わるような事態に一定の制限ができる形をはっきりさせたい」

述べた。

 憲法が保障する人権の制約理由となる「公共の福祉」については、

自民党があいまいだとして12年の改憲草案で「公益及び公の秩序」

に置き換えるよう提起。これに対し、政府が人権を過度に制約する

根拠になりえるとの批判が出ている中で、高市氏は改憲案4項目に

ある緊急事態対応にからめて訴えた形だ。

<抜粋終わり>


 「公共の福祉」という言葉が中途半端でよく分からない、という

のは、2012年に自民党が改憲草案を出した際にも解説で書かれて

いたことです。ならば基本書を読んで学んでみては、と進言したい

ところです。

 公共の福祉=公益・秩序、ではありません。まったくの間違いです

ので、初めて見る方は憲法のキホンとしてぜひ覚えていて下さい。


 日本国憲法は、この世で最も大事なのは人権だと考えます。

 だから「秩序」や「公益」なんてものを優先して制約するなんて

許されません。

 その人権を制約していい時があるとすれば、それは「誰かの人権と

誰かの人権がぶつかったときだ」というのです。


例1:好き勝手に「自分には職業選択の自由があるから今日から

医者になる!」と開業したらどうなるか 

→ きっと誰か死ぬし、病む。

誰かの職業選択の自由と誰かの命が衝突。

→ 命を優先すべきだから、医師は許可制(免許制度)にする。

 

 こういう調整システムのことを「公共の福祉に基づく制約」といい

ます。確かに聞きなれない言葉ですが、憲法の教科書を開けば必ず

最初の方に書かれていることです(改憲だ改憲だ!と叫ぶ人にかぎって

憲法の教科書を読んだ形跡が見られないのは何故だろう、と不思議で

たまりません)。


 公益に基づく人権制約、

 公の秩序に基づく人権制約、

 これを許せば、立憲主義は終わります。

 

 公益とか秩序ってなんでしょう?正直、よく分かりませんよね。

 分からないから、決めるのは(警察)権力になるのです。

 「その表現は秩序を乱す」「その活動は公益に反する」と警察に言わ

れてしまえば、もう終わり。あえて、モヤモヤとした曖昧な言葉を憲法

に書き込んで人権制約の根拠にすることで、権力は万能の力を手に入れ

ることができるわけです。

 

 権力が許す範囲でなら人権を行使してもよい。

 (法律の範囲内でなら人権を行使してもよい。)

 つまり高市氏(2012年の自民党改憲草案)は、大日本帝国憲法と

同じ政治体制を目指しているといえましょう。


 書いていて怖いです。

 こういう、「権力を憲法でしばる」という発想とは真逆の、「国民より

国家」「人権などジャマ」という世界観の人が、与党トップの候補にまで

なってしまうという現実は、恐怖そのものです。