2013年12月14日土曜日

私たちは無力ではない! 太田弁護士の手記



 特定秘密保護法の可決成立から1週間経ちました。
早くも同法は公布され、政府は内閣に準備室を設置して
施行の準備を進めているようですが、決して「可決したら
こっちもん」と思わせてはなりません。
 1週間前の怒りの火を灯しつづけましょう。私たちが
『自由な個人』であり続けるために。
 さて、今日は当会会員の太田啓子弁護士の手記をご紹介します。


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 特定秘密保護法が成立して1週間。
 怒りと落胆と不安に駆られている全国の皆様へ、
 「私たちは無力ではありません」
 という当然のことを改めてお伝えしたく、この文章を書くこととしました。


 唐突ですが、「学習性無力感」という言葉を聞いたことはありますか。
 50年ほど前に、マーティン・セリグマンという心理学者が次のような
実験をしたそうです。


1 電気ショックの流れる部屋の中に犬を入れ、一方の犬(A犬)は
 ボタンを押すと電気ショックが止められる装置のついた場所、
 他方の犬(B犬)は何をやっても電気ショックを止めることのできない
 場所に入れる。

2  A犬は、ボタンを押すと電気ショックを回避できることを学習し、
 自発的にボタンを押すようになった。

3 B犬は何をやっても回避できないため、ついには何も行動しなくなり、
 甘んじて電気ショックを受け続けるようになった。

4 そしてその後、電気ショックを回避できる部屋にA犬とB犬を移動
 させて実験を続けたところ、A犬は回避行動を自発的に行った。

5 ところがB犬は、回避すれば電気ショックを避けられる状態になって
 いたにも関わらず、もはや回避行動をしようとはしなかった。


 少数野党が反対していることについて「野党は野党であることを
思い知らせなくてはならない」という趣旨の発言が自民党から出た
と報じられたとき、
 国民の大きな反対にもかかわらず自民党政府が法案を強行採決
したとき、
 私は急に、B犬のことを思い出しました。


 ああ、政府は、
「どれだけ反対しても無駄だ、我々は、どんなに国民の反対の声が
大きくても、やりたいことをやるのだ」と、私達に思わせ、無力感を
学習させようとしているのだな、と感じたのです。私達を、B犬のよう
にしたいのではないかと。
 このときの強い憤りを、私は生涯、忘れることはないでしょう。


 今回の特定秘密保護法案反対で、生まれてはじめてデモという
ものに行った、生まれてはじめて国会議員にファクス・メールした、
という方も少なくないのではありませんか。

 はじめて政治にコミットしてみたが、一生懸命やったが、実を
結ばなかった、そんな思いでがっかりしている方もいらっしゃる
でしょうか。
 やっぱりデモをやったって、国会議員にメールしてみたって
ダメなんだ、もしかしたらそんな風に思っている方もいるでしょうか?


 そんなことはありません。私達は決して、無力ではありません。
 今後なにがあろうとも、B犬になってはいけません、無力感を
学習してはいけません。
 おかしいと思ったら何かアクションをするというのを、どうか
やめないで下さい。

 そもそも私達は全く、無力ではないのですから。
 国会議員への働きかけがどれだけ国会を揺らしたか、また、
今後具体的にどんなことができるのかは、「明日の自由を守る
若手弁護士の会」が法律成立日に発表した声明↓にも書いて
あります。是非ご一読下さい。
http://www.asuno-jiyuu.com/2013/12/blog-post_2956.html


 今後更に具体的なアクションの提案をしたいと考えています。
 今日からでもできる簡単な行動の1つとして、
たとえば、Twitterをやっている方は、アカウント名のどこかに
「★★★~特定秘密保護法廃案!」と付けてみるというのは
どうですか。「特定秘密保護法廃案」という言葉が、世の中に
少しでも多く流通させるだけでも、意味があると思います。
忘れっぽい世の中に、忘れるな忘れるな自分は忘れていない
とアピールし続けましょう。


 また、どこかの街頭で、国会議員が街頭演説をしているのを
見かけたら、「あなたは特定秘密保護法案に賛成されたのです
か反対されたのですか」と聞いてみる、というのもあり得るかも
しれません。たとえ、知っていても。ただ聞くだけで、ご自分の
意見を言わないのなら、少しやりやすくありませんか。
 ちなみにこれを、仲の良い弁護士が、法案成立後すぐ、都内
でやったところ、「賛成しました」と答えた議員の顔が、こわばって
いたそうです。
 「特定秘密保護法案にどういう態度をとった議員であるかは
有権者にとって大きな関心事である」、そういうことを、選挙時
以外にもアピールし続けましょう。


 また、あなたがいる場で、誰も特定秘密保護法の話をして
いなかったら、どうか勇気を出して「あの強行採決は、驚いた
よねー」「怖い法律みたいじゃない?」と、ぽろっと口にして
みませんか。
 誰かが最初に言ったら、それを待っていたというように
「あれはひどかった」「これから不安だ」と言い出す方が、
きっといます。他の人の前では言わなくても、あなたと二人
きりになったとき「さっきの話、私も同感」と言ってくる方が
きっといます。
 その場で特定秘密保護法のことを話題にする「最初のひ
とり」になって下さい。
 


 特定秘密保護法が成立した前日にネルソン・マンデラ氏の
訃報がありました。
 マンデラ氏の遺した名言がいくつか報じられ、それに鼓舞
された方も多いのではありませんか。私もその一人です。

 「何もせず、何も言わず、不正に立ち向かわず、抑圧に
抗議せず、それで自分たちにとっての良い社会、良い暮らし
を求めることは不可能です」(ネルソン・マンデラ)


 この言葉をかみしめ、これからも自由、民主主義、平和を
諦めることなく、歩んでいきたいと私は思いました。