2013年12月10日火曜日

自由を諦めない  会員の手記を紹介します

 

 2013年12月6日を、私達は決して忘れることはないでしょう。
戦後民主主義最悪の日を、思いを一つにして全身の怒りを込め
行動した皆さんは、今、どう振り返り、どう分析し、これからの行動
を見据えていますか。
   「明日の自由を守る若手弁護士の会」の会員270名も、
それぞれが、自分のたたかいを見つめ、得たもの、学んだものを
これからの長いたたかいにつなげる作業へとシフトしています。
 
 
 今日は、会の中でも特に海外への発信に奔走した内山弁護士の
記を紹介します。
 
 

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 秘密保護法は通ってしまったが、不思議とがっかりしていない。
 それは、日本国憲法の価値、表現の自由の価値を、みんなが
共有してつながることができた実感があったから。
 それは、日本の中だけではなくて、世界中の人たちとつながる
ことができたから。
   世界中に応援してくれる人がいるって分かったから。
 

  正直、1か月前は、ツワネ原則って何それ、美味しいの?
というレベルだった。
 「それは、ツクネや」、という突込みをしていた。

  11月26日、特定秘密保護法案が衆議院で強行採決され、
みんなががっくりしてしまった。
 そこで、いやまだ参議院があるよと、「明日の自由を守る若手
弁護士の会」がfacebookで説明したら、2200以上のシェア
された。
 「いいね」じゃなく、シェア。
 2200人が、自分の友達に伝えようと思った。
 それで19万人に伝わったらしい。

  他に何かできないのかという話になって、煮詰まっていたときに
ある美人弁護士が、軽やかに、
 「ホワイトハウスにメールしたいよね」、とポロッと言った。
 マジデスカ、と思った。
 でも、それくらいの発想の転換が必要だった。

  その美人弁護士は、憲法を明るく爽やかに語る。
 地元のカフェで子育て世代のお母さんを集めて憲法トークを
している、クリエイティブな方である。眉間にしわを寄せて「はん
たーい」と叫ぶタイプではない。地道にビラを配り歩いて、たま
たま雑誌の記者の目に留まり、女性誌に出て、憲法を語って
いたりしている。情熱大陸に取り上げてもらいたい人だ。

  彼女の一声から、「明日の自由を守る若手弁護士の会」の
みんなで声明案を作成し、英訳し、ネイティブチェックをかけ、
送付先を探しだすまで4日くらいか。

  送付先として予定していたのは、最初はホワイトハウスと
在日アメリカ大使館くらいだった。ただ、せっかくツワネ原則と
いうものがあるんだから、その起草に関わった22団体にも
送ってしまおうと、私が言った。
 「22団体もあるんだから、送付先を探すだけで大変じゃな
いか」とも言われたけど、大変だと言われるほど、何とかしよう
と思う性質。サイトが期限切れになっていた1か所を除いて、
全て探し出して、メールを送った。
 オバマ大統領、キャロライン・ケネディ大使に送ったあたりから、
もうできることは何でもやろうという気になった。
 ローマ法王にも伝えようと、バチカンにまでメールを送った
のは、ちょっと悪乗りしたかもしれない。

  しかし、そうしたら、半日くらいで、リアクションが返ってきて
「何ができるか教えてもらいたい」と言われた。
 Center for Law and Democracy(CLD) のトビー・メンデル理事長
である。長年、表現の自由や知る権利の分野で国際的に活躍
してきた人物だ。
 自分たちの声が、世界に届いた。
 国内では暖簾に腕押しで、なかなか手応えを感じられなかった
のが、世界には届いた。インターナショナル・スタンダードからしたら、
むしろ、自分たちがスタンダードだったんだと自信を持つことができた。

  トビーは、時間がないし、国連やアメリカを動かすのは無理だと
言っていたけど、翌日くらいには、CLDのプレスリリースを作っ
くれた。好きに使ってくれていいと言って。それで、急いで30
くらいで訳してネットに流した。トビーは、トビーで、自分のネット
ワークに流してくれると言っていた。

  そして、参議院の委員会で強行採決されたり、国連人権高等
弁務官が懸念を表明してくれ、それに対し自民党がけしからんと
言ったりした。
  戦前、国際連盟を脱退した日本の姿が重なった。
  参議院本会議が始まり、もう止められないのかとやるせない
気持ちになっていたところに、今度はツワネ原則を取りまとめた
Open Society Foundation (osf)が、懸念を表明したというニュース
が飛び込んできた。
 参議院で採決される直前にだ。
 ここもメールを送った先だ。あるいは、トビーが動いてくれたのかもしれない。
 NHKも、さすがにこれは報道した。
 OSFが懸念を表明したということは、世界中の表現の自由に
いての専門家が秘密保護法に異議を申し立てたに等しい。
 
 思いつきで始まった世界へのアクションだったけれど、確実に、
世界はつながった。

  日本は、国際連盟を脱退し、治安維持法を作って、勝っていると
国民に対して嘘を言って戦争をし、日本は焦土と化し、全国民が
炭の苦しみを味わった反省から、二度と戦争をしない、国際社会
中で協力を得ることで平和を維持しようと考えて、日本国憲法を作った。

  それを押し付けだと言う人もいる。
 しかし、戦後66年、この日本国憲法を受け入れて、平和を信条
として世界で取り組んできたのだ。そうして取り組んできたことを
評価してくれている人は、世界中にたくさんいる。

  9条を変えて軍隊を持ちたい人、秘密保護法が必要だという人は
中国が攻めてきたときに戦争放棄でどうやって国を守るのだという。
 しかし、国民に真実を伝えない政府は、必ず間違い、腐敗する。
民党の幹事長が、声を張り上げるデモをテロだと言ったが、もう
敗の芽がそこにある。戦前は、そうして腐敗して戦争に突き進んで
いった。政府や自民党が、自衛隊をどこかに派兵するという時に、
国会で「なぜ派兵が必要なのか」と説明を求めても、秘密保護法に
よって、それは特定秘密だと言われるのだ。
 国会は、政府が戦争しようとするのを止めることができないのだ。
 素晴らしい民主国家じゃないか。アメリカでさえ、大統領がシリアに
派兵しようとしたら、議会に止められたというのに。

  アメリカのロースクールを見学した際、入学直後に行われる導入
講義を聞いたことがある。憲法の三権分立の説明の中で、戦争の
行は政府の役割、宣戦布告は議会の役割と聞いて、軽い衝撃を
受けたことがある。アメリカでは民主的なコントロールが戦争に及んで
いること、戦争をしないと誓った日本にはそもそも三権分立の中で
戦争のコントロールというものを想定していないことに、である。
 
 
 もし日本国憲法を改正して戦争ができる国にするのであれば、
会のコントロールも規定されなければならないところ、自民党の
法改正草案にはそのような考え方はない。本当に、自民党に
任せて大丈夫か、国民主権が切り崩されて行かないか、戦争を
したら、勝っても負けてもおそらく国民は大きな苦しみを味わう
けれど、そんなことを国民は受け入れていくのか、受け入れて
いない国民が間違っているとおそらく自民党は言うけれど、
本当にそれでいいのか。秘密の保護といって、戦争をコントロール
できなくなったら、国民の苦痛は計り知れないものになるだろう。


 しかし、今回、国際的にネットワークがつながってみて、実感した。
 日本がおかしな方向に行こうとしたときに、自分たち一人一人が
ながっていったら、世界の人たちが手を差し伸べてくれ、応援して
くれたことを。
 日本の常識は、世界の非常識であって、世界の常識を主張して
る人には、世界中から応援がもらえることを。
 日本がおかしな方向に行こうとしたときに、止めようとしてくれた人が
いてくれたことを。

  日本の中だけで活動していたときは手詰まり感を感じていたけど
ここ1週間で世界とつながってからは、動けば変わることを実感できた。
こうして自分たち一人一人がつながっていくことで、本当にヤバいもの
を止める可能性があるんじゃないかと実感できた。
 今回は間に合わなかったけど、施行までにはあと1年くらいある。
の間に、もっと国際世論を高めるんだ。
 一人一人が世界とつながっていくんだ。
 そして、世界が手を差し伸べてくれた期待に、今度は私たちが応
なければならない。
 政治や大人に失望しているためか若者の投票率は低いようだけれ
(平成24年の衆議院総選挙では、20代37%、30代50%、他の世代
は60%以上)、自民党の絶対得票率は実は20%を切っている。
 小選挙区制や野党の分裂のせいで自分たちの意見が正しく国政に
反映されていないだけなのだ。
 自民党は浮動票を取り入れることはできていないと思われることから
すると、実は自民党なんて少数派なのかもしれないんだ。そんな少数派
の声だけで、自由を奪われていいはずがない。
 

  本当は、こんな国じゃあ嫌だという声は、もっと多いはずだ。
 日本国内でも、一人一人がつながっていくことが大事。

  高校生たちも、特定秘密保護法に反対して声を上げたことが報道
されていた。正直言って、勇気づけられた。自分たちには選挙権が
ないけど、言いたいことがあるんだ、表現したいことがあるんだと
大人たちが何も言わないでいるからこうなっちゃったじゃないかと。
ああ、この若者たちが自分の国に自信が持てるように、大人が頑張ら
なきゃいけないなと思った。
 そして、次の総選挙の時には、彼らは有権者だ。
 彼らともつながっていかなければならない。

  自由っていうのは、空気みたいなもの。普段は当たり前のように
思っているけど、なくなったらとても息苦しい。
 そして、自由は当たり前のように存在しているのではない。
 歴史の中で、苦しんで、勝ち取ってきた物だ。
 この夏、アメリカ連邦最高裁のアンソニー・ケネディ判事は、
American Bar Associationの年次総会での講演で、自由は自動的に
えられるものではなく、維持して、後世に伝えて行かなければなら
ないものだと語っていた。
 気付かない内に自由が奪われようとしているけれど、今ある自由を
決して手放してはいけない。そして、声を上げた高校生のように、
次の世代に伝えて行かなければならない。


  私たちは、自由を諦めない。日本を諦めない。