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2013年11月24日日曜日
特定秘密保護法案 海渡雄一弁護士の論考
海渡雄一弁護士の論考を紹介いたします。
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秘密保護法案はツワネ原則違反、廃案にするしかない
-国際社会から、続々と懸念の声 いまこそ日本政府は暴走をとめよ-
秘密法反対ネット
海渡 雄一
1 修正案では問題は解決しない
秘密法の制定は、戦前の例を見てもわかるように、
戦争への道に直接つながっている。負けている戦争
の真実が隠され戦争が続き、多くの命が失われた。
国民の多くは、この法案が原発の安全情報もテロ
対策などの名目で秘密にしていくものであることを
見抜いている。みんなの党や維新の会と与党の間で
進められた修正案では何も問題は解決されない。
首相を第三者機関にしても、官邸で首相を取り巻く
治安官僚たちが政府に君臨するだけだ。60年で
原則公開といっても、例外だらけで期間も長すぎる。
この法案は廃案とするほかない。そして、これからの
安全保障と情報へのアクセスのあり方について、
きちんとした議論を始めるべきだ。そのような議論の
ために合理的でバランスのとれた基準を提供して
くれる国際原則がある。それがツワネ原則だ。
2 アメリカに追随せず、ヨーロッパの流れに見習おう
ツワネ原則の根拠は日本政府も批准している
自由権規約19条にある。ヨーロッパ人権裁判所は、
ツワネ原則をさらに進め、ジャーナリストやNGO
(非政府組織)活動家が政府の隠された情報に
チャレンジして情報を入手して公開する過程に窃盗
や侵入、不正アクセスなどの法違反があっても、
その情報が公共の討論に貢献し、違反による害が
大きくなければ、倫理的な基準に沿ってなされた
行為に対して刑事罰を科すべきではないという法理
を確立している。また仮に均衡を欠き、刑罰を科さざ
るを得ない場合も、表現行為に対する刑罰は罰金に
止めるべきであるという判例理論も確立している。
ジャーナリストや市民活動家を厳罰に処し、刑務所
に送り込もうとしてやまないアメリカ政府や日本政府
とは根本的に違う価値観がヨーロッパでは共有され
ている。ツワネ原則は、このようにしてヨーロッパに
おいて発展してきた民主主義と国の安全保障を両立
させる考え方をガイドラインとして定式化したものだと
言える。
3 ツワネ原則の法規範性
ツワネ原則は、国連そのものが策定したものではない。
しかし、この原則の策定には、国際連合、人及び人民
の権利に関するアフリカ委員会、米州機構、欧州安全
保障協力機構の特別報告者が関わっている。
フランク・ラ・リュ(言論と表現の自由の権利に関する
国連特別報告者)は「私は、国連人権理事会によって
本原則が採択されるべきだと考える。全ての国が、
国家安全保障に関する国内法の解釈に本原則を反映
させるべきである。」と述べている。
カタリナ・ボテロ(表現の自由と情報へのアクセスに
関する米州機構(OAS)特別報告者)は、「安全保障の
ための国家の能力と個人の自由の保護との間に適切
な均衡を保つものとして、ツワネ原則を歓迎する。」と
述べている。
原則の公表後、欧州評議会議員会議は 2013年
10月2日「このグローバル原則を支持し、欧州評議会
の全加盟国の当該分野の関係官庁に対して、情報へ
のアクセスに関する法律の制定と運用を現代化するに
あたっては、本原則を考慮に入れることを求める。」と
決議している。日本は、欧州評議会のオブザーバーで
あり、この原則を十分に検討しなければならない。
4 国連特別報告者、ツワネ原則の起草者からも強い懸念
国際社会からの関心が急速に高まってきた。
アーティクル19は、11月12日秘密保護法案に対して
「法案を否決し、日本が国際法を忠実に遵守するよう
強く求める。」との声明を明らかにした。
国際ジャーナリスト連盟(IFJ)環太平洋アジア地連は
11月21日「国民の知る権利を損なう」として秘密保護法
案に反対する声明を出した。
そして、ツワネ原則に起草者として関わったフランク・
ラ・リュ国連報告者はアナンダ・グローバー国連健康問題
に関する特別報告者と連名で、特定秘密保護法案に関し、
日本政府にいくつもの質問事項を伝え、国際法における
人権基準に照らし合わせた法案の適法性について、強い
憂慮を表明した。ラ・リュ氏は、「透明性は民主主義ガバ
ナンスの基本である。情報を秘密と特定する根拠として、
法案は極めて広範囲で曖昧のようである。その上、内部
告発者、そして秘密を報道するジャーナリストにさえにも
重大な脅威をはらんでいる」「例外的に、情報が機密にさ
れる必要があると当局が認めた場合でも、独立機関の審
査が不可欠である」「違法行為や、公的機関による不正行
為に関する情報を、公務員が正当な目的で機密情報を公
開した場合、法的制裁から守られなければならない」「同じ
ように、ジャーナリストや市民社会の代表などを含むその
ほかの個人が、公益のためと信じて機密情報を受け取り、
または流布しても、他の個人を重大な危険の差し迫った
状況に追いやることがない限り、いかなる処罰も受けては
ならない」と述べている。
また、11月24日付のジャパン・タイムス紙は、ツワネ
原則の起草にあたったオープンソサエティ財団上級アド
バイザーのモートン・ハルペリン氏へのインタビューを
掲載している(共同・AFP・時事)。
ハルペリン氏は、「この法案は内容も、その審議の拙速
さも私が見てきたどの法案よりもひどい。」「なぜ(秘密を
漏えいしても)公益によって処罰されない場合が保障され
ないのか、公の説明が必要だ。」と述べている。
我々は、この法案にはツワネ原則から見ると、重大な
欠落点、違反点が多数認められると指摘してきた。この
指摘を裏付ける国際的権威の発言が相次ぐ。日本政府
に法の支配への敬意と民主主義を尊重する一片の良心
が残されているならば、国民の8割以上が懸念を示して
いる法案をいったん白紙に戻し、現存する自衛隊法など
の中に含まれる秘密保全法制を含めて原則の考え方を
織り込んで改正するなど、根本から練り直す作業に着手
するべきである。安倍首相の識見と洞察力が試されている。