2017年10月11日水曜日

最終回だよ!やや日めくり憲法 10条(国民の要件)



「やや日めくり憲法」シリーズ、ついに最終回。
11条から始まって、99条まで行き、1条に戻って…
最終回の今日は10条です。



<日本国憲法 10条>  
 日本国民たる要件は、法律でこれを定める。

 憲法10条に基づいて、1950年、明治憲法下で制定された国籍法は、
全面的に改正されましたが、当時の国籍法は,出生の時に「父が日本国民
であれば」子が日本国籍を取得する(!)父系優先血統主義を採用する
男女平等に反する法律でした。

 1984年,女子差別撤廃条約が国連で採択されたことを契機として,
母が日本国籍の場合にも子どもに日本国籍が付与されることになりました
このように,父母いずれかが日本国籍者である場合,どの子に日本国籍
付与されることを血統主義(ヨーロッパなど)といい,親の国籍とは
関係なく,出生地の国の国籍が付与されることを生地主義(アメリカ・南米
諸国など)といいます)。


 2008年,法律婚をしていない日本人の父とフィリピン人の母の間に
生まれた子どもが出生後に父から認知を受けたことで国籍取得届出を提出
したものの、両親が結婚していないことを理由に却下されてしまいました。
両親が結婚してようがいまいが、父親は日本人なのだから日本国籍を得ら
れるはず。子どもは,法律上の婚姻関係ない,日本国民の父と日本国民で
はない母との間で生まれた子には日本国籍を認めていない国籍法3条1項は
憲法に違反すると訴え、裁判を起こしました。最高裁はこの国籍法3条1項
は「憲法14条に違反する」と認定しました。

 ところで,1910年の日本による韓国併合により,コリアンには日本
国籍が取得され,1947年5月3日に,日本国憲法が施行された当時も
日本国籍がありました。しかし,1952年の講和条約の発効により,
日本は朝鮮半島に対する主権を放棄しました。このとき,日本は,講和
条約の発効と同時に,法務省の通達をもって,一方的に在日コリアンから
日本国籍を剥奪したのです。つまり,憲法10条が日本国民たる要件は
法律で決めるとしているにもかかわらず,法律よりも下位にある通達に
よって在日コリアンの日本国籍を喪失させ,在日コリアンの人権保障を
否定したのです。

 オーストリアを併合したドイツ政府が1956年に,ドイツ国内に居住
するオーストリア人に対し,国籍を選択する権利を付与する法律を制定した
こととはまるで対照的です。

 「日本国民」であるか否かによって,憲法に定めた権利そのものが認めら
れない,あるいは,著しく制約されてしまう可能性があるのです。


 日本国籍を持っている人を「日本国民」ということの並びで考えてみたい
ことがあります。みなさんは「日本人」を定義できますか?

 私は、すぐにはかっちりとした定義を言えません。

 ここ数年、「日本人スゴイ」と、ことさら「日本人」というルーツを強調
して褒め称えるTV番組が増えているような気がします。


 一方で、日本に帰化したモンゴル人力士の偉業を「日本人力士すごい」とは
決して言わずに、「日本出身力士」という言葉をあらたに作って賞賛したり
します。
 ノーベル文学賞をとったガズオ・イシグロ氏は5歳で英国へと移住し、英国
の国籍を持ち、コミュニケーションはもっぱら英語でとっていますが、それで
も日本のメディアは彼のルーツが日本にあることを強調して、日本の偉業かの
ように報道します。
 こういう人たちにとって、「日本国民」と「日本人」は違うということなの
しょう。

 このように、モヤっとした定義できない「日本人」であることに強烈な
アイデンティティを置こうとする空気が充満する社会は、とても息苦しい
ものです。
 そう、いうまでもなく、日本は多民族の地です。日本に住み着いた人たちは、
台湾の方面、朝鮮半島の方面、北方の方面、この3つのルートで入ってきた
と言われています。大和朝廷朝鮮半島や中国からの渡来人のアドバイスの下、
政治体制を整えました。他方、広く本州に住んでいたアイヌの人たちを
「征伐」して北へ追いやり、明治政府により同化政策をとりました。
 沖縄として併合された琉球王国も、例えば奄美大島と沖縄本島とでは、文化は
かなり異なります。このように、忘れてはならない侵略と同化の過去を背負い
つつ、たくさんの民族のたゆまぬ交流の歴史があってこそ、今の日本、今の
日本人があることを思えば、決して「日本国民」とは違う「日本人」という
くくりで優越感を感じたり、あるいは他者を排除したりするようなことは
できないはずです。

 少なくとも、日本国憲法はそういう偏狭な排外主義を容認しているとは
思えません。

 とてもシンプルな条文ですが、アイデンティティや尊厳について、立ち
止まって考えさせられますね。