自民党憲法改正草案は、国民に憲法を尊重する義務を課しています(改正草案102条1項)。
「国民が憲法を尊重するのは当たり前じゃないの?」と思うかもしれません。
しかし、国民に憲法尊重義務を課すということは、憲法を根幹から覆す重大な問題なのです。
日本国憲法では、憲法を尊重する義務を負うのは、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他公務員」(99条)であって、国民の憲法尊重義務は定められていません。
それはなぜでしょうか?
4月8日のブログで、「国民の権利と自由を守るために権力を縛るルール」が憲法であり、近代立憲主義の考え方だと述べました。別の言い方をすれば、憲法は、国民の権利と自由を侵害しないように、国家権力に対して「憲法を守れ」と言っているのです。
この近代立憲主義の考え方からすれば、憲法を尊重する義務を負うのは、国家権力を行使する側、つまり公務員であって、国民ではありません。ですから、日本国憲法は国民に憲法尊重義務を課していないのです。
国民に憲法尊重義務を課すことは、近代立憲主義とは相容れないことなのです。