2015年8月27日木曜日

え!? 自民党草案が教科書になったって? イクホウシャ教科書へのツッコミ⑤ 小池弁護士が斬る☆



 育鵬社の公民教科書って自民党の改憲草案そのもの
だなぁぁというツッコミ連載、続きです。
 先日は打越さく良弁護士が、同教科書の「家族・結婚の
あり方」をめぐる記述について軽快にペンで斬りました。



 このツッコミに関連して、そもそも社会科の授業での『家族』
の取りあげ方について、教育法に詳しい当会会員・小池拓也
弁護士の補足があります☆ 
 学校教育で『家族』はどこの授業でどう取り扱うべきなのか、
学習指導要領が一応規定しているものの、育鵬社はそれを
あえて無視しているのですね~…
 

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現在の中学校学習指導要領社会科に「家族」は出てきません。


1989年の学習指導要領では,

<個人と社会>

家族、地域社会などの機能を扱い、人間は本来社会的
存在であることに気付かせ、社会生活における個人の
役割とその在り方について考えさせる。また、現在の
家族制度の基本的な考え方が個人の尊厳と両性の本質
的な平等に基づいていることの意味を理解させ、家族
の望ましい人間関係について考えさせる。

 とされていたのですが,

1999年には,

<個人と社会生活>

家族や地域社会などの機能を扱い、人間は本来社会的
存在であることに着目させ、個人と社会とのかかわり
について考えさせる。その際、現在の家族制度におけ
る個人の尊厳と両性の本質的平等、社会生活における
取決めの重要性やそれを守ることの意義及び個人の
責任などに気付かせる。

となり,

それが現行の学習指導要領では,

<現代社会をとらえる見方や考え方>

人間は本来社会的存在であることに着目させ,社会生活
における物事の決定の仕方,きまりの意義について考え
させ,現代社会をとらえる見方や考え方の基礎として,
対立と合意,効率と公正などについて理解させる。
その際,個人の尊厳と両性の本質的平等,契約の重要性
やそれを守ることの意義及び個人の責任などに気付かせる。

となりました。

つまり「家族」が消えました。
これに伴い,東京書籍,教育出版,日本文教出版,清水書院
では家族の扱いは軽くなっています。



別途、家庭科では、学習指導要領では、

家庭と家族関係について,次の事項を指導する。
ア 家庭や家族の基本的な機能と,家庭生活と地域とのかか
 わりについて理解すること。
イ これからの自分と家族とのかかわりに関心をもち,家族
 関係をよりよくする方法を考えること。

とされています。

なので,あえて公民で家族についてふれる必要性は低いわけで,
これに沿った4社の教科書の書き方は当然といえましょう。

それでも公民であえて『家族』について触れるなら,家庭科では
扱われにくい「個人の尊厳と両性の本質的平等」に比重を置く
べきでしょう。
 

例えば帝国書院の公民教科書は,今も家族に大きなスペースを
とっていますが,憲法規範と下位の民法規範を混同するようなこと
はなく,下にみるとおり学習指導要領の記述に沿い「個人の尊厳」
に力点を置いています。

 
《日本国憲法は,家族の一人ひとりが,個人また人間として
尊重され,その権利はだれからもおかされないという個人の
尊厳や,男女や夫婦の平等(両性の本質的平等)を保障して
います。この考え方にもとづいて,民法では家族はたがいに
協力しなければならないこと,親は子どもを養ったり教育し
たりする権利や義務があることを定めています。》
(太字は原文ママ)
 

 打越弁護士の指摘どおり,2014年検定を受けた教科書の中
では,育鵬社の特異性が際立ちます。(自由社は2014年検定
を受けていない=基本的に前回の検定時のままの内容です。
当然ながら採択されるのは難しいですが。)。

  

 育鵬社や自民党が家族の役割を強調するのは,育児介護等を
家庭の負担とすることで福祉予算を削減することの外,戦前の
家制度,家父長的社会を志向し,「個人の尊厳」から少しでも
脱却しようという意図があるためではないでしょうか。


 ちなみに,
憲法第13条前段は「すべて国民は、個人として尊重される。」
となっていますが,自民党改憲草案では
「全て国民は、人として尊重される。」となっています。


 「個」の字一つですが,随分意味が違ってくると思いませんか?

 育鵬社版公民教科書は自民党改憲草案の先取りであり,
その採択は改憲への地ならしといえるでしょう。