2014年4月3日木曜日

集団的自衛権の限定容認って?その2~砂川事件の最高裁判決は何て言ってるの?

その1はこちら


自民党の高村副総裁は、砂川事件の最高裁判決が「自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうる」と言っていることを根拠に、必要最小限の集団的自衛権も許されるんだと言っています。
この砂川事件というのはどういう事件で、どんな判決だったのでしょうか。


1 砂川事件ってどんな事件?


東京都旧砂川町にあった立川米軍飛行場で、原水爆を搭載できる大型爆撃機も離着陸できるようにしようという滑走路の延長計画が持ち上がりました。その反対運動をしていたデモ隊が、昭和32年7月8日、立川米軍飛行場の基地内4、5メートルに立ち入りました。このことが、旧安保条約に基づく刑事特別法違反であるということで、23名が逮捕、うち7名が起訴されたという事件です。
第1審の東京地方裁判所(伊達秋雄裁判長)は、昭和34年3月30日、日本政府がアメリカ軍の駐留を許していることは憲法9条2項に反する等の理由で、無罪判決を下しました。いわゆる「伊達判決」です。
検察側は、高裁を飛ばしていきなり最高裁に上告する「跳躍上告」という特殊な手続を使って上告しました。これに対して昭和34年12月16日、最高裁判所大法廷は、在日米軍は憲法9条に違反しないという判決を下しました。
これが、砂川事件の最高裁判決です。


2 最高裁は何を言っているの?


砂川事件の最高裁判決は、その1でも引用しましたが、
「自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうることは、国家固有の権能の行使として当然のこと」
と言いました。


実は、これには続きがあります。


最高裁は、憲法9条と憲法前文の意味について、こう言ったのです。
日本は、憲法9条2項が禁止する「戦力」は持たないけれども、「これによって生ずるわが国の防衛力の不足は、平和を愛好する諸国民の公正と信義に信頼することによって補ない、もってわれらの安全と生存を保持しようと決意したのである。」
要は、憲法9条2項が戦力を持つことを禁止しているから、日本としては防衛力が足りなくなるということもありうる。でも、「平和を愛好する諸国民」に信頼することによってその不足を補うんだ、具体的にはアメリカに安全保障を求めることも禁止されないんだ、というわけです。


この最高裁の論理は、日本が独自の戦力を持つことは禁じられているけれども、そのかわり、「国の存立を全うするために必要な自衛の措置」として在日米軍の駐留を認めてもいいんだ、というものです。
逆に言えば、最高裁は、日本が持つ独自の戦力について、かなり抑制的に考えていることがわかります。


そもそも砂川事件最高裁判決は、在日アメリカ軍の駐留が憲法に反するかどうかを判断したものです。
日本がどのような戦力(具体的には自衛隊ですね)を持っていいか、どのような武力行使をしてもいいかということについて判断したものではありません。
さらに、最高裁判決は、9条2項が「いわゆる自衛のための戦力の保持をも禁じたものであるか否かは別として」、在日米軍は憲法9条2項で保持を禁止されている戦力ではない、と言っています。この「別として」という部分からも、この判決が、日本がどのような戦力を持っていいか、そして「集団的自衛権の行使」、つまり日本が攻撃されていないときに日本が武力行使をしてもいいか、という場面について何も言っていないことがわかります。


この最高裁判決から「必要最小限の集団的自衛権は認めているんだ」と解釈することは、明らかに無理があるんです。


3 砂川事件最高裁のウラ事情


ちなみに、ですが。
東京地方裁判所(伊達判決)が在日米軍を憲法違反だと言ってしまったので、政府関係者や駐日アメリカ大使館は慌てます。東京地裁判決(昭和34年3月30日)の翌朝、31日午前8時には、マッカーサー駐日大使が藤山外務大臣に会って、最高裁に「跳躍上告」することを進言しました。
そして、4月24日までに、田中耕太郎最高裁長官(当時)は、マッカーサー大使に対し、最高裁判決が出る時期の見通しをないしょで告げています。当事者の代理人である弁護団にも知らされていない時期に、公平・中立を保たないといけない最高裁判所の長官が、アメリカにこのような通告をしたんです。
さらに田中最高裁長官はアメリカ側に、15人いる最高裁判事全員一致での判決を願うと伝えたり、評議の秘密を破ってそれぞれの裁判官の考え方を伝えたりしました。
最高裁判決は結果的に、15人の最高裁判事が全員一致で在日米軍は合憲だという判決になり、マッカーサー大使は田中長官の手腕を褒め称える電報をアメリカ本国に送っています。
このような内実は、2008年~2013年にかけて発見された資料で明らかになりました。(詳しくは布川玲子・新原昭治編「砂川事件と田中最高裁長官」日本評論社)


砂川事件の裁判長でもあった田中最高裁長官は、実質的にはこの事件の当事者であるアメリカに対し、その意図に反する判決は出さないよ~というメッセージを送り続けていたということです。
その判断の内容が果たして公正・中立なものだと信じられるでしょうか。


このような形で出された砂川事件最高裁判決が、さらに当時の最高裁の意図すら離れて拡大解釈される。
こんなことが許されるはずがないと思うのです。


<続く>
その3は、「限定」っていうけどほんとに限定されるの?という点についてです!