2020年6月30日火曜日

自民党のダーウィンの誤用 日本人間行動進化学会の反対声明



 自民党がダーウィンの進化論を誤用して憲法改正を主張したことに
対して、日本人間行動進化学会が反対声明を発表しました。
 「生物進化がどのように進むのかの事実から『人間社会も同様の
進み方をするべきである』とする議論は間違いだ」


 偽科学を利用する与党、大変恥ずかしく、危険です。
 声明は下記のとおりです。ぜひご一読ください。


● 自民党広報の進化論誤用やめて 学会が反対の声明 (共同通信)
https://this.kiji.is/649893088533595233?c=39546741839462401



● 日本人間行動進化学会「『ダーウィンの進化論」に関して流布する言説についての声明」(PDF)
https://www.hbesj.org/wp/wp-content/uploads/2020/06/HBES-J_announcement_20200627.pdf




* * * 声明全文 * * * *


 インターネット上の⾃由⺠主党広報ページに、ダーウィンの進化論が
誤った形で引⽤されて議論になっています。この件に関連して日本人間
行動進化学会理事会からの⾒解を述べます。
 

 本学会は、現代⽣物学の成果を踏まえて、進化という観点から人間の
行動や社会を理論的・実証的に理解することを⽬指して設立された
集まりです。

 歴史を振り返るとダーウィンの進化論には、思想家や時の為政者に
よって誤用されてきた苦い 歴史があります。生物進化がどのように進む
のかという事実の記述を踏まえて、「人間社会も 同様の進み方をする
べきである」もしくは「そのように進むのが望ましい」とする議論は
「自然主義」と呼ばれてきました。これは「自然の状態」を、「あるべき
状態だ」もしくは「望ましい状態だ」とする自然主義的誤謬と呼ばれる
「間違い」です。
 論理的には成立しないはずの 議論であるにもかかわらず、進化論と
自然主義が結びつくことによって、肌の色、民族、性別、能力の有無
などによる差別や抑圧が正当化されてきた歴史が厳然と存在します。
 そして現代においても、自然主義の立場から差別や暴力を正当化する
言論は失われていないのです。科学という権威を利用して政治的な主張
を展開しようとする中で、そもそもダーウィンが主張したことのない
言説が編み出され流布されるような事態まで起きています。

 ダーウィン的進化とはランダムに生じた変異の中から、環境に適さない

ものが淘汰されていく プロセスです。現代の生物学では、この進化という
プロセスから、いかに生命の多様性が生み出されてきたのか研究され明ら
かになってきました。私たちの先人たる科学者たちは、ダーウィンの進化
論が誤用され、政治的に利用されることに警鐘を鳴らし、その問題を解決
しようと努力してきました。
 しかし現代においてもなお、特定の政治的主張に権威を与えるために、
進化を含む科学的知識が誤用される事例がしばしばみられます。
 このような誤用がいまだに流布し続けていることは、私たち科学に携わ
る者の努力不足だと言わざるを得ません。進化の視点から人間行動と社会
を理解しようとする専門家の集団として、非力を痛感し、深く反省して
います。そして私たちには、進化のありようを、安直に社会の望ましい
あり方として提示することの危険性について、社会に警鐘を鳴らす責任が
あると信じています。

 インターネット上の自由民主党の広報ページ「憲法改正ってなあに身近
に感じる憲法のおは なし」内における4コママンガ「教えて!もやウィン」
第1話「進化論」(引用1)は、こう した誤用の一例です。


ダーウィンの進化論ではこういわれておる
  最も強い者が生き残るのではなく最も賢い者が生き延びるのでもない 。
  唯一 生き残ることが出来るのは 変化できる者である 。
 

 このようにダーウィンの進化論を「引用」した上で、特定の政治的主張
が支持されています。
 しかしダーウィンの著した文献にこのような記述はなく、メギンソン
 (Leon C. Megginson) が自身の解釈として述べた文章が、あたかも
ダーウィンが主張したか のように誤って流布したものだと指摘されて
います(引用2、3)。
 また、進化論は変化できる者のみが生存できるとは主張していないの
です。進化は「集団中の遺伝子頻度の変化」のことであり、個体の変容
に関する言及ではありません。さらに、すでに述べたように、生物の
進化のありようから、人間の行動や社会がいかにあるべきかを主張する
ことは、論理的な誤りで す。

 私たちはここで、特定の政治的意見を主張するものではありません。

いかなる方向性・内容で あっても、ダーウィンの進化論という科学的
知識が、社会的影響力を持つ団体や個人によって (それが意図された
ものであるかどうかにかかわらず)誤用されることについて、反対を
表明するものです。「変化できる者だけが生き残れる」と信ずるので
あれば、誤った科学を根拠にするのではなく、個人や団体の信念として
表明するべきだと考えます。

以上