2017年8月1日火曜日

やや日めくり憲法 80条(下級裁判所の裁判官)


 7月が終わりました…いよいよ猛暑なシーズンに入ってきましたね。
 8月ということで、“やや日めくり憲法”は80条代に突入しました!


<日本国憲法 80条>
  下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した

 者の名簿によって、内閣でこれを任命する。
  その裁判官は、任期を十年とし、再任されることが
 できる。但し、法律の定める年齢に達した時には退官
 する。
2 下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の

 報酬を受ける。
  この報酬は、在任中、これを減額することができ
 ない。


 憲法80条は「下級裁判所の裁判官」についての定めです。
 「下級」とは最高裁判所以外の裁判所をいいます。
 つまり、高等裁判所・地方裁判所・家庭裁判所・簡易裁判所の裁判官、ですね。
 公務員の中でも、なぜ裁判官の身分について特別に定めを設けているか、と
いうと…

 第1項では身分保障について定められていますが、下級裁判所の裁判官は
「最高裁判所の指名した」名簿によって、内閣から任命されます。
 国民の選んだ国会議員から選ばれた内閣が任命する…という方法で(やや
迂遠かもしれませんが)裁判所に対する民主的なコントロールを図ろう
(国民が裁判官を選ぶ)という趣旨があるのです。

 次に、第2項では裁判官のお給料について、手厚いルールが書かれていま
すね。
(企業で働く方々についても、こんなルールが憲法に書かれてればいいのにな
とか思ってしまいますよね。) 
 このルールは、裁判官の身分を収入の面から保障することで、
“裁判官の職権の独立”を強化しています。
 政府が、政府に都合の悪い裁判官のお給料を勝手に下げたりできないように
して、裁判官が安心して、冷徹な法的判断で自由に判決が書けるように、そして
ひいては司法権という国家権力が正常に機能するように、という趣旨なのです。

 そう、裁判所(司法権)は、行政と立法のすることを常に「冷徹な第三者」
として、憲法の視点から審判を下さなければなりません。「政治への配慮」
など、する必要はないのです。そんな配慮はむしろ立憲主義を壊します。


 なお、第1項に「再任されることができる」とあります。
 つまり裁判官は10年ごとに「再任」されて裁判官として働き続けるわけ
ですが、憲法上「されることができる」と書かれてあるため、再任されない
こともけっこうあったして、もしかして不安定な身分なのかな…?と、
再任の理解については意見が分かれています。

 1971年、10年の任期を終えた裁判官が、(おそらく、ある法律家団体
の会員であることを理由に)再任を拒否された事件(宮本裁判官再任拒否事件)
がありました。
 その事件において最高裁は、再任するかどうかは「任命権者の裁量に任される」
としました。
 つまり再任するかどうかは内閣の自由というわけです。
 胸三寸。こわっ・・・・

 この最高裁の判断に対しては、当然ですが、「裁判官の身分保障がかなり害さ
れてしまう」という批判があります(政府のやることに違憲判決を書く裁判官が
安易に再任拒否されかねませんよね…)。
 そこで、憲法学上は「原則として再任されるが、例外的に再任を拒否される
場合があると考えるべきである」という説が有力です。