2016年10月5日水曜日

憲法カフェまつり2016 分科会の報告3 「国が決めるの!?家族の形・個人の幸せ~24条改憲の危機」その①







(文責 太田啓子弁護士)


 憲法カフェまつり2016で開かれた分科会のうち、
「国が決めるの!?家族の形・個人の幸せ~24条改憲の危機」では、
離婚等の家事事件、特にDV被害者や虐待を受けた子どもの支援を
専門分野とする打越さく良弁護士が講師を務めました。






 憲法24条は、「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立」すること、
家庭内で夫婦は同等の権利を有すること、家庭に関することを決める
法律は「個人の尊厳と両性の本質的平等」に基づいていなければなら
ない、と、家庭内での男女平等を定める条文です。
 これが、自民党憲法改正草案では「婚姻は両性の合意に基づいて
成立」と、「のみ」をあえて削除したり、「家族は互いに助け合わなけ
ればならない」という条文を新設したりという内容になっています。




●そのような改正案はどういう発想で作られたものなのでしょうか。
●そもそも24条ってどういう条文なのでしょうか。




そのあたりのことを知ってみるのがこの分科会のテーマでした。




 24条が定めるのは、要するに家庭内での男女平等と、家庭内で
個人の尊厳が大事にされるべきこと、です。当たり前ですね、そう
あるべきですよね。
 ところが実際にはなかなか「当たり前」ではなく、24条の理念が
十分に実現されていない現状があることを、打越弁護士は、離婚
事件の豊富な経験から具体例を示しながら解説しました。




●離婚事案からみえる、
       24条の理念が実現不十分な状況


 たとえば、結婚し子どもが生まれたら「僕を支えてほしい。家事育児
に専念してほしい」と夫に言われ妻が退職し専業主婦に。子どもが
ある程度の年齢になり、再就職を考えて資格をとろうと妻が勉強を
始めると、夫が「俺の稼ぎだけじゃ文句があるわけ?」と不機嫌になり、
なかなか再就職をできない。他方で夫が些細なことでカッとなって、
妻がたしなめると「誰のおかげでメシを食えてるんだ!嫌なら出て
いけ!」と怒鳴る…
 など、経済的に依存させておいて(=出ていったら経済的に困る状況
にしておいて)、何か気に入らないことがあると「嫌なら出ていけ」と
怒鳴ったり。果ては殴る蹴るの暴力をふるったり。


 こういう話は、離婚事件を多く扱う弁護士にとっては結構「あるある」
なんです。
 
 実際に離婚ということになった時、経済的に逼迫するのは、多くの
場合、圧倒的に、女性です。
 たとえば、結婚期間につくった貯金が夫名義で500万円あるとします。
会社員の夫と専業主婦という夫婦で、預貯金が夫名義であっても、
夫婦で作った貯金とみなし、夫婦で半々に分けるという財産分与方法
が離婚訴訟実務では主流です。
 半々に分けるんだから、対等で平等、と簡単にいえるでしょうか?
ずっと仕事を続けていた夫は会社でキャリアを積み、年収700万円
の正社員で、今後昇進昇給もあり得て退職金もある。かたや、家事
育児に専念していた妻が、離婚後就職しようとしても、同レベルの
仕事が見つかることなど滅多になく、年収100万円台程度の不安定
なパート勤務くらいしかできない、という状況はよくあります。
 なので、たとえ妻が暴力暴言をふるう夫と離婚したいと考えても、
経済的な不安からなかなか踏み切れず何年も迷うというのは、
弁護士たちは離婚実務でよく見聞きするのです。
 このような「あるある」事例からも、24条が掲げる「個人の尊厳と
両性の本質的平等」がなかなか十分には実現されていないのが
今の日本社会の実情とわかりますよね。




●憲法24条のせいで「気軽に破局」????


 ところが今の憲法24条を批判して「憲法24条のせいで気軽に
離婚できる」などと言う人がいるのでほんと驚いてしまいます。
 たとえば、安倍内閣の閣僚の7割が所属する日本会議の女性
組織の「日本女性の会」がテキストとして使用して勉強会を行って
いるという「女子の集まる憲法おしゃべりカフェ」
(百地章監修 明成社 タイトル自体、あすわか発祥の「憲法カフェ」
をパクってる感(゜ロ゜))
 を読んでみましょう。


 カフェのマスターが娘の高校生・桃子に「シングルマザーなど片親
世帯への支援が、家族を持っている人たちへの支援に比べ多いで
すよね?」と問います。
 そして、桃子が「確かにそうかも」と答えると、
 マスターが「それも憲法の影響です。24条1項に「両性合意のみ」と
あるせいで「気軽に破局」する、とか。。。。




 いやいやいや…そんなことはあるわけないどころか、そもそも現状、
離婚を「気軽に」なんて全く離婚できません。事実認識を根本的に
間違っています。
 むしろ逆に離婚をためらい暴力に耐えている。24条の理念が十分
実現されていないことこそが問題なのです。。。




 という、離婚現場を知り尽くした打越弁護士の言葉に、参加者の
皆さんはうんうんとうなずくことしきりでした。


(続く)