2014年6月2日月曜日

エンタメ憲法シリーズ~「ウィキッド」後編

 今日は、昨日に引き続き、劇団四季「ウィキッド」の中にある憲法問題について書いてみたいと思います。

★ネタバレな内容を含みますので、ご注意ください★

あすわかのサイトをご覧の皆さんは、もうお分かりの事と思いますが、このウィキッドの中には、さまざまな憲法問題が含まれていました。

1 エルファバが肌の色で虐められていたこと

肌の色での差別というのは、現代で言えば人種差別ですよね。
国際会議に出てみると、人種、性別、国籍、肌の色などは関係なく、話している内容で価値が決まるんだということを痛感します。
差別していると、相手の素晴らしいところを知ることなく終わってしまって、とてももったいないことです。
日本で言えば、非嫡出子の相続分が差別されていたのが、最高裁で違憲だとされました。日本にも、まだまだ差別が残っています。

また、同級生たちは、エルファバの肌の色で、結構あからさまにいじめていますので、最近話題のヘイトスピーチにつながる話でもあります。
表現の自由は保障されているものの、他人の人権と衝突する場合には、制約される場合があると考えられています。ヘイトスピーチは、その対象とされている人の尊厳を無視したものですし、ヘイトスピーチが放置されてホロコーストにつながったという見方もあります。
現在の法律では、ヘイトスピーチだからといって、ただちに規制できるわけではないのですが(名誉棄損、脅迫、不法行為などの問題になることはあります。)、それは表現の自由という価値が重要だと考えられているからです。表現の内容によって規制をしてしまうと、権力側の都合によって規制すべきではない表現行為まで規制されかねないから慎重に考えなくてはならない、というわけです。

2 動物の言葉を奪うこと

動物たちの言葉を奪うというのは、ある人種・民族について表現の自由を認めないかのような話です。
もちろん、動物に「人権」はありませんが、ウィキッドの世界にいる動物は、人間と同じように言葉を話すので、人間と同じような存在なんですね。人種・民族の違いに近いように感じられました。そうすると、1で書いたように、差別の問題になります。

さらに、動物を小さい頃から調教してしゃべれないようにしておけば、そもそも言葉を覚える危険がなくなるだろうという、オズの魔法使いの政策。これは、義務教育の内から、権利がないんだというような思想を教え込んでおけば、政権を批判するような言動はしなくなるだろう、というように見ることもできます。
教育内容の統制は、実質的な思想統制につながっていきます。
そういえば、ごく最近、教育内容を政治が左右できるような法律改正がありましたね。教育勅語を見直そうという発言もありました。とても心配です。

3 罪をかぶせられたこと

本当は、オズの魔法使いの方が動物から言葉を奪うという悪いことをしているのに、逆にエルファバがテロリスト扱いされて追われてしまっています。
自民党の憲法改正草案では、表現の自由は「公の秩序」に反してはならないとしています。
そうすると、政権が悪いことをしているからということで政権批判をしていたら、それは「公の秩序」に反すると言われて弾圧されてしまうこともあり得るのです。
しかも、政権のしている悪いことが特定秘密に指定されていたら、それを知った人が内部告発をしようとしても、特定秘密保護法によって処罰されてしまうわけです。

4 秘密を知ってしまい、追われていること

オズの魔法使いは、実は魔法が使えなかったなんて、とんでもない秘密なわけですが、知り過ぎたエルファバは、捕まえられそうになってしまいます。特定秘密を知ってしまった人が、内部告発したら処罰されてしまうような状況と同じですよね。
オズの魔法使いがエルファバを追いはじめる前に言った「彼女は知りすぎた」というせりふは、とても象徴的です。

権力者にとって一番怖いことは、国民が賢くなることです。権力者の痛いところをついて、説明を求められ、嘘だと分かったら、次の選挙で落とされてしまうかもしれません。
それで、あたかも情勢が厳しいように言ってみたり、時間がないかのように言ってみたり、誇張していってみたり、事実と異なることを言ってみたりすることがあるのです。

そんなときには、まず「知憲」。
今の憲法の中身を知ってみましょう。

そうやって憲法を知ってからウィキッドを見てみると、どうして憲法が必要なのか、実感をもって知ることができるかと思います。
憲法は身近なものではないと思われがちですが、ウィキッドという作品一つとってみても、こんなに憲法問題が潜んでいるんですよね
ウィキッドは今年11月16日(日)に千秋楽だということですので、ご興味のおありの方は、お早めにどうぞ。