2020年5月6日水曜日

緊急事態宣言 と 緊急事態条項



 「憲法に緊急事態条項を創設すべきだ」という
首相や自民党の提案に賛成ですか?反対ですか?


 いろんなマスメディアが世論調査で聞いていましたね。
 これに正確に答えるためには、まず緊急事態条項(憲法学上は「国家
緊急権」といいます)とは何かを知ることが、当然ですが大切です。

 今現在発令されている新型インフルエンザ特措法の緊急事態宣言とは
まったく違うものだ、という理解してからでないと、回答できませんよね。
 その説明もなく「賛成ですか?反対ですか?」と唐突に尋ねるメディア
は、ちょっと不親切ですね。。。



 自民党が改憲案として提案しかかっている「緊急事態条項」は、内閣
が「こんな非常時に国会で議論してる余裕はない」と判断すれば、
事実上、内閣が立法権を掌握できる制度です。つまり、内閣の一存で
三権分立を止める「独裁のスイッチ」。




 これが発動されれば、強大な権力は誕生しますが、内閣に休業補償を
出す気がなければ補償は永遠に出ません。休業補償を出すかどうかは
政治問題ですから、内閣に強大な権限を集中させるかどうか、とは
無関係です。

 仮に今、もしも憲法に緊急事態条項が存在していて政府がそれを
発動させていたら、自粛要請に応じない飲食店やパチンコ店の経営者は
逮捕され、働いていたら店員たちは補償なく家に押し込められ、餓死の
危機になっている可能性があるわけです。

 ということで、自民党が提案する「緊急事態条項」は、内閣の一存で
三権分立が止まる「独裁のスイッチ」です。国会を封じることになるの
で、何の議論もなく国民の人権の制限や罰則が作られる可能性も大いに
あります。
 自民党が提案する条文案を読んでみると、たとえ国会の事後承認が
得られなくても「無効になる」とは書かれていません(!)国会や国民
がどう批判しようが怒ろうが、やったもん勝ち、ということです。
 当然、最大級の濫用の危険性があります。


 他方、新型インフルエンザ特措法の緊急事態宣言は、内閣が立法権を
掌握するわけではなく、国会はまだ生きて内閣を監視・批判できます。
集会や催事の開催の自粛要請や指示ができるのでさまざまな人権の制約
が懸念されますが、列挙されているものに限る、という意味では一応
「限定」されたものだ、とはいえます。罰則もありません。発令時に、
「いつまで」と期間も決めねばならない。慎重な扱いが要求される
ものの、一応の歯止めはかけられています。


 というわけで、ここまで読めば「両者はまったく異なるものだ」と
お分かりでしょう。
 これまで、与党自民党はこの緊急事態条項を「大災害の際、国会で
議論している余裕はない」といって、改憲(導入)を訴えてきました。
その論理は「感染症の蔓延」でも変わらないと思われますが、そういう
非常時には、「権限を現場に下ろす」のが最適なのであって、権限を
(現場から遠い)トップに集中させるのは「柔軟で迅速な対応」の
真逆だ、というのも同じでしょう。
 
 ぜひ、これらをよく理解した上で、「緊急事態条項を憲法に導入し
よう」という提案の是非を、考えて頂ければと思います。

 もしお近くに誤解していそうな、あるいはよく分かっていないままの
人がいたら、ぜひ教えてあげてください。