2017年9月7日木曜日

やや日めくり憲法96条 (憲法改正)


<日本国憲法 96条>
1 この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2
 以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に
 提案してその承認を経なければならない。
  この承認には、特別の国民投票又は国会の定め
 る選挙の際行はれる投票において、その過半数の
 賛成を必要とする。

2 憲法改正について前項の承認を経たときは、

 天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すもの
 として、直ちにこれを公布する。



 「第9章 改正」には条文が1つだけあります。
 つまり憲法96条が、憲法改正について定めた唯一の条文ということに
なります。


 96条1項は、憲法改正には、①「各議院〔衆議院及び参議院〕の3分の2
以上の賛成」による国会の「発議・提案」と、②「特別の国民投票又は国会の
定める選挙の際行はれる投票」における国民の過半数による「承認」とが
必要であると定めています。


 つまり、日本国憲法を改正するためには、法律を制定・改正する場合とは
異なり、国会(衆議院及び参議院)の過半数だけでは足りなくて、衆議院及び
参議院の双方について3分の2以上の賛成を得なければならず、その上、
国民投票で過半数を取ることまで要求されているのです。


 また、憲法改正の場合には法律を制定・改正する場合とは異なり、「衆議院
の優越」は認められていません。
 つまり、衆議院で3分の2以上の賛成を得られても、参議院で3分の2以上
の賛成を得られなかった場合には、憲法改正について国民投票にかけることが
できません。

 96条2項により、憲法改正が成立した場合(国民投票でも過半数の賛成を
得られた場合)には、天皇によって「国民の名で、この憲法と一体を成すもの
として」直ちに「公布」されることになっています。


 1947年5月3日の憲法施行後、国民投票に関する具体的な手続法は長期
にわたり存在しませんでしたが、2007年に「日本国憲法の改正手続に関する
法律」(憲法改正国民投票法)が制定され、2010年に施行されました。
 この法律には、憲法改正の国民投票に関する手続が詳細に定められていま
すが、国会の発議後、早いと60日で、長くても180日で国民投票が行われ
ます。

 また、最低投票率の定めはなく、有効投票総数の過半数の賛成を得られたら、
憲法改正が成立することになっています。
 つまり、国会の発議があったら、改正案についてじっくり考える間もなく、
国民投票をしなくてはならないかもしれないし、投票率が20%であっても、
わずか10%ちょっとの有権者が賛成すれば憲法が改正されてしまうことに
なるわけです(>_<)。
 なお、2014年の法改正によって、来年(2018年)6月21日から
18歳、19歳の国民にも国民投票の投票権が認められることになりました。


 ところで、改正手続をクリアしさえすれば、およそどのような内容の憲法改正
でも認められるのでしょうか…?
 たとえば、民主主義をやめる、とか、国民主権をやめる、とか、そんな改正も
できてしまうのでしょうか…?
 この問題は、「憲法改正の限界」として、長年にわたり議論されてきた
テーマです。憲法改正に限界があると考える立場、限界はないと考える立場
の双方から様々な主張がなされてきましたが、現在では、憲法改正には限界が
あると考える立場が通説とされています。


 それでは、憲法96条や国民投票法の手続に従ったとしても、改正すること
のできない“限界”とは、具体的にはどのようなものでしょうか。
 この点についても様々な学説がありますが、権力分立や基本的人権の尊重
という「立憲主義の根本原理」や「国民主権の原理」、「憲法改正規定の実質」
(つまり、国会による発議の3分の2要件や、国民投票の存在など)については
改正できないという立場で概ね一致しているようです。


 2012年12月に第2次安倍政権が発足してからしばらくの間、同政権に
よって「まずは憲法96条を改正して、国会による発議の要件を3分の2から
過半数に緩和しよう」という主張が繰り広げられましたが、憲法学の立場から
すれば、これは憲法改正の限界を超える、つまり憲法違反の疑いの濃い主張
だったわけですね。
 (結局、多くの憲法学者を筆頭に国民の猛烈な批判に合い、この96条変え
ようキャンペーンは失敗に終わりました。立憲主義、という言葉が知られる
ようになるきっかけになる出来事でした。)