教科書採択のシーズンということで、
あちこち「えええ!?」な育鵬社の公民教科書にツッコミを
入れる連載を不定期で続けております。
今回は、当会会員・打越さく良弁護士が書評スタイルで
バッサリ斬り刻みました☆
********************************
家族に関する法律が個人の尊厳と両性の本質的平等を基礎と
することがあいまいな育鵬社「新編新しいみんなの公民」
今話題の育鵬社「新編新しいみんなの公民」
(以下、「みんなの公民」(平成27年3月31日検定済)を
手に取ってみた。
SNSで断片的にそのあ然とする記述を目にしてきたが、
いやはや、通読すると、疲労感が違う。随所で「うおおおっ」
「まじか」と叫ばずにはいられない驚くべき記述が多数ある
もので。
さて、ツッコミどころ盛りだくさんだが、あすわかの一員
であるほか、別姓訴訟弁護団事務局長でもある私としては
(注 別姓訴訟=夫婦同姓を強制する民法750条が憲法13条、
24条、14条、女性差別撤廃条約に違反すると主張する訴訟)、
真っ先に取り上げるべきは、「みんなの公民」の「法の下の
平等」(64頁65頁)、「男女の平等と家族の価値」(66頁
67頁)、それからそれから、と意気込むも、うう、字数の
制限が。ひとまず、「家族と郷土」(18頁19頁)を取り上げ
る。なお、現在中学生が使用している平成23年検定済みの
育鵬社「みんなの公民」では、「家族と私」というタイトル
であった。
「日本国憲法(24条)や民法は、家族についての基本的な
原則として「個人の尊厳と両性の本質的平等」と、夫婦が
たがいに協力することを定めています」(18頁)。
さらりと読み飛ばさないでほしい。この一文は最高法規である
憲法に対し民法が下位法であることを曖昧にした上、どこまで
が憲法が書いたことなのかを不明にしている。
憲法24条2項は、「・・・家族に関するその他の事項に関し
ては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、
制定されなければならない」と明記する。これは、明治民法の
家制度において、性別他で様々な差別があったことの反省を
踏まえたものである。すなわち、家制度のもとでは、その
構成員の婚姻等の意思決定を個人が自由にすることはできず、
戸主が判断した。構成員は性別、年齢順、婚内子か婚外子か
等の属性により役割が異なるという家制度では、女性は原則
戸主にはなれない、相続順位も男性より下位等の差別があった。
夫婦の協力等の義務を規定する752条も含め、民法の家族に
関する諸規定は、憲法24条2項に反した規定を置けない。
あたかも民法752条の夫婦の協力義務を憲法と同等の「基本的
な原則」かのように誤解させる一文はいただけない。
この書きぶりは何かを思い出す。そうだ、自民党改憲案が
新設する24条1項だ。同項は、「家族は、社会の自然かつ
基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わ
なければならない」とする。家族の多様化、変化という現象
を認識しながら、「社会の自然かつ基礎的な単位」とあえて
書く意味は何なのか。「個人の尊厳」より前に「単位として
の家族の尊重」を打ち出すことは、個人の尊厳を価値としな
かった家制度のイメージを思い浮かべざるを得ない。
「みんなの公民」(18頁)は、単身世帯の増加など家族の
多様化に触れてもいる(単身女性もいるのになぜか「結婚
していない働きざかりの男性や高齢者の単身者世帯が増加」
とピックアップしているのも首を傾げるが)。
その後に平成23年検定済み版では、「社会の基盤である
家族のきずなについて考えていく努力が必要です」としめ
くくっていた。
ちょっと待って。家族のきずなを夢想してどうするという
のか。必要なのは、個々人がその多様な生活を楽しく豊かに
過ごせるようにし、違いがあってもお互いを尊重すること
ではないだろうか。とツッコみたいところだったが、平成27
年版では、「育児期の家庭では夫が仕事をして妻が専業主婦
の割合が、現在も高い割合を占めている」と記載する。
その背景にある男女の賃金格差等に言及しないでのこの記載
はあたかもそのような家庭が「標準」「理想」と示している
ようだ。
さらに平成27年版(18頁)は「祖父母・親・子の三世帯の
同居や近居の価値も見直されつつあります」と続ける。
「社会の基礎単位である家族を大切にするという視点に立ち
、家族の絆を深め、家庭基盤の充実を図ります。(略)特に、
家庭資産の形成がはかれるような税制の改正、三世代同居・
近居の優遇、質の高い持家・借家制度等を進めます」
という三世代同居の推進をなぞっている(「みんなの公民」
は、ここに限らず、自民党の政策を取り入れている)。
現実には三世帯同居や近居が可能でも望ましくない場合も
ある。育児中の父母のニーズは三世帯同居等より保育・学童
保育の充実や児童手当等の拡充だったりするのだが、その
現実は度外視し、憲法が価値を置く「個人」の尊重も「
家族」というマスへのノスタルジーの強調の中に霧散させ
ている。
まさに、自民党改憲案24条を先取りする記述であるといえる。
現行憲法は、個人の尊厳を価値とし、特に憲法24条において、
ているのだ。声を大に繰り返さざるを得ない。